
職場で突然、同僚が息苦しそうに倒れ込んだり、激しい呼吸の乱れや震えを起こしたりしたら、誰でも激しく動揺してしまうものです。
「救急車を呼ぶべき?」「どう声をかけたらいいかわからない」「下手に触って悪化させてしまったらどうしよう」と焦るのは当然のことです。しかし、目の前の異変にいち早く気づき、冷静に助けようとしているあなたの存在は、発作を起こしている同僚にとって何よりの救いとなります。
実は、過呼吸やパニック発作が起きているとき、本人の脳内では自律神経(交感神経)の急激な暴走が起き、「このまま死んでしまうのではないか」という強烈な恐怖と窒息感に襲われています。本人は決してわざと取り乱しているわけではなく、意志の力では呼吸や身体をコントロールできない状態に陥っています。
この記事では、心療内科・精神科の知見に基づき、職場で同僚が過呼吸やパニック発作を起こした直後の安全な介抱の仕方、絶対にやってはいけないNG対応、そして落ち着いた後の受診サポートの手順をわかりやすく解説します。
📝 この記事のまとめ(お急ぎの方へ)
- 本人の状態: 激しい不安から過換気となり、血液中の二酸化炭素が減少して手足のしびれ・めまい・強い死の恐怖に襲われている状態です。
- 避けるべき対応: 人だかりを作る、ペーパーバッグ法(紙袋を当てる)、無理に深く吸わせる、「落ち着け」と叱責・命令することはNGです。
- 効果的な接し方: 静かな場所へ誘導し、衣服を緩め、「息を吐くこと」を促す(吸うのではなく吐くリズムに同調させる)、背中を優しくさする。
- 受診・相談の目安: 発作が20〜30分以上治まらない、意識消失や激しい胸痛がある場合は救急要請。発作が治まっても再発予防のため早期の心療内科受診を促します。
💡 【ご本人だけでなく、職場の上司・同僚からのご相談も可能です】
「職場でパニック発作を繰り返している」「復職や業務調整をどう進めるべきか専門家に相談したい」という場合も、まずは一度お話をお聞かせください。産業医連携や人事担当者様・ご家族からの事前相談も受け付けております。
職場で過呼吸・パニック発作が起きる直前の「見逃しやすい3つのSOSサイン」
パニック発作や過呼吸は突然起きるように見えますが、実は発生の数時間前〜数日前から、自律神経の乱れや過度の緊張による前兆が現れていることが少なくありません。
1. 表情やコミュニケーションの変化
急に顔色が青白くなる、冷や汗をびっしりかいている、問いかけに対する返答がうわの空になる、視線が定まらず落ち着きなく周囲を見回すといった様子が見られます。会話中に「息が吸いにくい」「喉がつまる感じがする」とこぼすこともあります。
2. 身体のそわそわ感と頻繁な離席
胸苦しさや動悸から逃れようと、デスクのネクタイや胸元のボタンを何度も緩めたり、落ち着きなく立ち上がってトイレや給湯室へ頻繁に往復したりします。座っていられず、身体を小刻みに揺らしていることも兆候のひとつです。
3. 「耐えられないかも」という不安・自責の吐露
発作の前段階として、「今日、最後まで乗り切れるか不安です」「迷惑をかけたらどうしよう」と強い焦燥感を口にしたり、簡単な業務に対しても「どうしよう、できない」とパニック気味に過剰反応することがあります。
【観察チェックリスト】同僚の限界サインを見抜くチェックリスト
職場で以下のような様子が重なっている場合、過呼吸や急性ストレス反応を引き起こすリスクが高まっています。
- ☑ デスクで肩を上下させて浅く速い呼吸(ハァハァという息)をしている
- ☑ 「手足がしびれる」「冷たい」「力が入らない」と訴えている
- ☑ 激しい動悸や胸の圧迫感、めまいを気にして胸元や頭を押さえている
- ☑ 締め切りや会議・プレゼン前など、極度の緊張環境で硬直している
- ☑ 「息が止まりそう」「倒れそう」と恐怖でパニックになっている
💡 【職場で発作が起きてしまった・起きそうな方へ】
過呼吸やパニック発作は、適切な初期対応と早期の治療によりコントロールが可能です。同僚の方の健康と安全を守るため、一人で悩まず専門医にご相談ください。
やってはいけない「NG対応」と、命を救う「正しい介抱の仕方」
パニック発作や過呼吸は命に関わる病気ではありませんが、対応を誤ると窒息感や恐怖心が増幅し、発作が長引いてしまいます。医学的知見に基づいた正しい手順を把握しておきましょう。
1. 【NG】人だかりを作る・「紙袋を口に当てる」・「深呼吸して(吸って)」と指示する
① 人だかりを作る:周囲に見られる恥ずかしさとプレッシャーが恐怖を助長します。関係者1〜2名以外は速やかに席を外させましょう。
② ペーパーバッグ法(紙袋を口に当てる):かつて推奨されましたが、現在は低酸素血症を引き起こす危険性があり原則禁忌(NG)とされています。
③ 「深く吸って!」と指示する:過呼吸は息を吸い込みすぎて血液中の二酸化炭素が不足している状態です。さらに吸わせようとすると症状が悪化します。
④ 「落ち着いて!しっかりして!」と叫ぶ:本人はコントロール不能な恐怖の中にいるため、焦らせる声かけはパニックを加速させます。
2. 【OK】周囲の視線を遮り、「吐く呼吸」をゆっくりリードする
ステップ①:人目のない安全な場所へ移動させる
可能であれば会議室や休憩室、救護室など静かで横になれる場所へ誘導します。歩行が困難な場合は無理に歩かせず、その場でしゃがませて壁にもたれかけさせます。
ステップ②:衣服を緩め、楽な姿勢をとらせる
ネクタイ、ベルト、第一ボタンなどを緩めて胸部や腹部の圧迫を取り除きます。前かがみで座らせるか、少し背もたれに寄りかかる姿勢が呼吸しやすくなります。
ステップ③:「息を吐くこと」だけに集中させる
介抱者は低く落ち着いたトーンで「息を吸うのではなく、ゆっくり吐きましょう」と誘導します。口をすぼめて「ふーっ」と5秒以上かけて吐き出し、吸うのは自然に任せるリズムを作ります。
3. 【具体例】本人の恐怖を静める「魔法の声かけ」
介抱者が落ち着いて対応している姿を見せることが、最大の抗不安薬となります。
・「大丈夫ですよ。そばにいますからね」(見捨てられない安心感を与える)
・「苦しいけれど、過呼吸で命を落とすことは絶対にありません」(死の恐怖を医学的事実で和らげる)
・「吸わなくて大丈夫。私と一緒に、ゆっくり『ふーっ』と息を吐き出しましょう。いーち、にー、さーん…」(介抱者が吐く息の手本を見せる)
背中に手を当て、ゆっくりと下に向かって優しくさすりながら声をかけてあげてください。
本人が「大丈夫だから」と病院に行きたがらないときの促し方
発作が治まると、本人は「職場に迷惑をかけてしまった」「大騒ぎにして恥ずかしい」という強い罪悪感から、「もう治ったので大丈夫です」と病院受診を拒否しがちです。しかし、放置すると「また職場で倒れたらどうしよう」という予期不安が強まり、再発リスクが高まります。
- ■ ステップ1:身体のセーフティチェックとして受診を提案する
- 「メンタルの病気」としてではなく、「急に呼吸が苦しくなったから、念のため心臓や肺に異常がないか内科や専門クリニックでチェックしてもらおう」と身体疾患の確認名目で受診を勧めます。
- ■ ステップ2:会社・上司の立場から「安心のための受診」と伝える
- 「あなたが無理をしてまた苦しくなるのが一番心配だし、会社としても元気でいてほしいから、医師の意見を聞いて安心させてほしい」と、相手を責めるのではなく会社・周囲側の希望として伝えます。
- ■ ステップ3:当日の帰宅付き添いや受診同行を手配する
- 発作直後は脱力感や再発の恐怖で一人での移動が危険な場合があります。「タクシーで一緒に病院まで行こう」「ご家族に連絡して迎えに来てもらおう」と安全な導線を整えてあげましょう。
サポートする職場や同僚がパニックに巻き込まれないために
職場で倒れそうな同僚を介抱する経験は、介抱した側にとっても大きな精神的ストレスとなります。「自分がなんとかしなければ」と一人で抱え込む必要はありません。
- 介抱役をチームで分担する: 介抱する人、周囲の人払いや部屋を確保する人、上司や人事に連絡する人など役割を即座に分けましょう。
- 「発作を止めるのは自分ではない」と心得る: 発作は通常20〜30分程度でピークを過ぎて自然に落ち着きます。介抱者の役目は「安全な環境を保ち見守ること」であり、発作を無理に止めることではありません。
- 介抱者自身のケアも怠らない: 緊迫した場面に対応した後は、介抱したスタッフ自身も深呼吸をし、休憩を取るなどして緊張を解いてください。
💡 【職場のメンタルヘルス・パニック障害の治療はお任せください】
パニック発作やお薬の調整、診断書の発行、職場復帰へのステップなど、精神科専門医が手厚くサポートいたします。
ご本人への接し方に悩む上司の方や産業保健スタッフ様からのご相談も歓迎しております。まずはお気軽にご連絡ください。
職場の過呼吸・パニック発作に関するよくある質問(Q&A)

この記事の監修者
ゆうメンタルクリニックグループ 理事長:安田 雄一郎
精神科医(精神保健指定医)・マンガ原作者
東京大学医学部卒業
世界中の人の心をラクにするために今日もメンタルクリニックで働いている医師。



























