
強いストレスに直面したとき、脳が自己防衛のために記憶を一時的に切り離す「解離性健忘(かいりせいかんぼう)」という精神疾患があります。
つらい出来事のあとに「あの時の記憶がない」「気がついたら知らない場所にいた」といった経験があると、「頭がおかしくなってしまったのではないか」と強い不安に襲われますよね。
しかし、それは決してあなたの心が弱いからではありません。脳が耐えきれないほどの苦痛からあなたを守るために、一時的にシャットダウン(解離)を起こしているのです。
この記事では、強いストレスで記憶が飛ぶ「解離性健忘」のメカニズムと、最新の知見に基づいた対処法、精神科で行われる心理検査、そして心療内科を受診するべき目安について、専門用語をわかりやすく噛み砕きながら解説します。
📝 この記事のまとめ(お急ぎの方へ)
- 原因: 極度の精神的ストレスやトラウマから心を守るための、脳の防衛反応(解離)
- リスク: 記憶の空白による社会生活への支障、不安感の増大、うつ病やPTSDの併発
- 対処法: ストレス環境からの離脱、精神科心理検査による適切な評価、心理療法や薬物療法
- 受診の目安: 記憶の抜けが繰り返される、日常生活に支障が出ている、強い不安や不眠が続く
解離性健忘が生じる「3つの医学的要因」
解離性健忘は、脳が過剰なストレスやトラウマ(精神的外傷)から自己の精神を守るために、記憶や意識を一時的に切り離すことで起こります。その具体的な要因を3つ解説します。
1. 脳の自己防衛システム(解離)の作動
人間は、自力では処理しきれない悲しみや恐怖に直面した際、一時的に「自分」と「体験」を切り離す(解離:かいり)ことで精神の崩壊を防ごうとします。これが記憶のネットワークを遮断し、特定の期間の記憶がすっぽり抜け落ちる原因となります。
2. ストレスホルモンによる海馬への影響
強いストレスを感じると、脳内でコルチゾールなどのストレスホルモンが過剰に分泌されます。記憶を司る脳の器官である「海馬(かいば)」がこの影響を強く受けることで、一時的に新しい記憶の定着や古い記憶の想起(思い出すこと)が阻害されます。
3. トラウマ(心的外傷)の抑圧
事故、災害、激しいハラスメントなど、生命や尊厳を脅かすような出来事を経験した際、その苦痛を意識から追い出すために、無意識のうちに記憶を「抑圧(押し込めること)」してしまいます。これにより、その出来事に関連する記憶が思い出せなくなります。
今のあなたの状態は?セルフチェックリスト
以下の項目に心当たりはありませんか?これらは解離性健忘や、強いストレスによって脳が悲鳴を上げているサインかもしれません。
- ☑ ストレスを感じる特定の出来事や、その前後の記憶がすっぽり抜けている
- ☑ 気がつくと「なぜここにいるのか分からない」場所にいることがある
- ☑ 自分で書いたメモや買った覚えのない物が身の回りにある
- ☑ つらい出来事の記憶を思い出そうとすると、頭痛がしたり頭が真っ白になったりする
- ☑ 他人から「さっき言ったよ」と言われることが増え、単なる物忘れとは違う違和感がある
解離性健忘の悪化を防ぐ「3つの医学的アプローチ」
1. とにかく寝る・休むことを最優先にする
疲弊した脳と神経系を回復させるには、十分な睡眠と休息が不可欠です。ストレス源(仕事、人間関係など)から物理的に距離を置き、脳への刺激を最小限に抑える環境を作りましょう。
2. 「自分を責める言葉」をストップする
「記憶が飛ぶなんて自分がだらしないからだ」と自分を責めると、それがさらなるストレス(二次的ストレス)となり症状を悪化させます。「記憶が飛ぶのは、脳が自分を守ってくれた結果だ」と捉え直すことが大切です。
3. 精神科心理検査と専門的な治療法を受ける
心療内科や精神科で「心理検査(解離体験尺度など)」を受け、自身の状態を客観的に把握することが治療の第一歩です。その後、医師による心理療法(カウンセリング)や、不安を和らげる薬物療法などを組み合わせてアプローチしていきます。
「ただの疲れ」と「病院に行くべきサイン」の違い
一時的な物忘れや疲れによるうっかりミスと、医学的な治療が必要な「解離性健忘」には明確な違いがあります。以下のような症状がある場合は、早めに専門医へご相談ください。
- 2週間以上、同じ状態が続いている
- 睡眠(不眠・過眠)や食欲に影響が出ている
- 自分の名前や住所、身近な人のことが一時的に分からなくなるなど、生活に重大な支障が出ている
精神的な症状は、虫歯と同じで「気合で治る」ものではありません。放置すればするほど回復に時間がかかってしまいます。
心療内科は「限界が来る前」に相談する場所です
心療内科は、完全に心が折れて動けなくなってから行く場所ではありません。「なんだか最近おかしいな」「つらいな」と思ったタイミングで、予防として相談に来ていただいて全く問題ありません。
- ■ うまく話せなくても大丈夫です
- まとまっていなくても構いません。話したくないことは無理に話さなくてOKです。医師がゆっくりとお話を伺います。
- ■ 薬は必ず飲まないといけないの?
- 症状に合わせて相談しながら決めます。薬を使わず、まずは環境調整(会社へ提出する休職の診断書作成など)や漢方薬で様子を見ることも可能です。
💡 【あなたをサポートします】
「こんなことで…」と悩む必要はありません。あなたのつらい気持ちを、まずは私たちに教えてください。
当クリニックは、あなたの心に寄り添い、一緒に解決策を考えます。
よくある質問(Q&A)

この記事の監修者
ゆうメンタルクリニックグループ 理事長:安田 雄一郎
精神科医(精神保健指定医)・マンガ原作者
東京大学医学部卒業
世界中の人の心をラクにするために今日もメンタルクリニックで働いている医師。



























