ちいかわ映画を通して『不老不死』を考えてみた。

こんにちは、ゆうメンタルスキンクリニック医師の森しほです。
最近、X(Twitter)で「人魚の肉を食べると不老不死になる」という話が妙に話題になっていますね。
どうやら『ちいかわ』の映画がきっかけのようですが、私はまだ観ていません。
ネタバレを避けている最中でして、内容には触れませんが、「怖いらしい」と聞いて少し身構えつつも、気になっています。
『ちいかわ』映画公式サイト
https://chiikawa-movie.jp/
◆「不老不死」に憧れていました
子どもの頃、私は手塚治虫先生の『火の鳥』や『ブラック・ジャック』が大好きでした。
『火の鳥』には、不老不死を求める人々が数多く登場します。
当時は
「歳を取らないなんて最高じゃないか」
「いつまでも好きなことができるなんて夢みたい」
と、本気で思っていました。
だからアンチエイジングにも興味がありました。
でも大人になった今、以前ほど「ずっと生きたい」とは思わなくなりました。
実は私は、医学部に入る前に何年も浪人をしていました。
その頃のことは東洋経済オンラインさんに載せていただきました。濱井さん、ありがとうございます!https://toyokeizai.net/articles/-/718173?display=b
その時の経験から、人生で本当に大切なのは寿命の長さではなく、
「自分なりにやり切れた」と思えることだと考えるとようになりました。
思い残すことがなければ、「もっと何百年も生きたい」という気持ちは自然と小さくなります。
限られた時間だからこそ、人は頑張れる。
不老不死に以前ほど憧れなくなったのも、そんなことを考えるようになったからかもしれません。
逆に、目的もなく、つながりもなく、ただ永遠に生き続ける人生は、想像すると少し怖く感じます。
実際、手塚治虫の火の鳥にも、永遠の命を手に入れても、愛する人を見送り続ける孤独に苦しむ姿が繰り返し描かれています。
◆人が本当に恐れているもの

精神医学では、人が最も苦痛を感じやすいものの一つが孤立(social isolation)や孤独感(loneliness)だと考えられています。
ここで大切なのは、この二つは同じではないということです。
客観的孤立
こちらはイメージしやすいでしょう。
- 家族がいない
- 友人がほとんどいない
- 地域や職場など社会とのつながりがない
こうした状態です。
社会的孤立は、うつ病だけでなく、認知症や心血管疾患、死亡率の上昇とも関連することが数多く報告されています。
主観的孤独
一方で、こちらはもっと厄介です。
友達もいる。
家族もいる。
それなのに、
「誰も本当の自分を理解してくれない」
「私は一人ぼっちなんじゃないか」
と感じてしまう状態です。
精神医学では、こちらの主観的孤独感(loneliness)がメンタルヘルスへ非常に大きな影響を与えることが知られています。
つまり、
「一人だから孤独」ではなく、理解されていないと感じることが孤独なのです。
◆病気がつらい理由
病気そのものももちろん苦しい。
でも実際には、
「この苦しさは誰にも分かってもらえない」
そう感じることが、さらに人を追い詰めます。
うつ病でも、
がんでも、
慢性疾患でも、
患者会や自助グループがあるのは偶然ではありません。
同じ病気の人と話すだけで、
「自分だけじゃなかった」
と思えることがあります。
これだけで気持ちが軽くなる人は少なくありません。
アルコール依存症の自助グループや、うつ病の当事者会などで回復が促される背景にも、
「同じ経験を共有できる仲間の存在」があります。
苦しみそのものが消えなくても、
孤独が減ることで、人は苦しみに耐えられるようになるのです。
◆では、不老不死は幸せなのでしょうか
ここで、もう一度「不老不死」に戻ります。
もし自分だけが何百年も生き続けるとしたら。
家族は先に亡くなる。
友人もいなくなる。
恋人も年老いていく。
自分だけが取り残される。
そして、
「この苦しさを理解できる人は誰もいない」
そんな状況になります。
不老不死そのものより、
「同じ時間を生きる仲間がいないこと」
こちらの方が、ずっと苦しいのではないでしょうか。
◆人間は「つながり」で生き延びた生き物
人間はライオンより弱い。
クマより力もありません。
素手なら、ほとんどの大型動物に勝てないでしょう。
それでも人類がここまで繁栄した理由は何でしょう。
答えは、
協力できたからです。
言葉を使い、
役割分担をし、
社会を作り、
助け合ってきた。
だから文明が生まれました。
つまり、人間最大の武器は筋力ではなく、
社会性
なのです。
安心感も幸福感も、実はここから生まれています。
◆ハーバード大学が80年以上追い続けた「幸福」の答え

この話を裏付ける有名な研究があります。
1938年から80年以上続いているHarvard Study of Adult Development(ハーバード成人発達研究)です。
世界で最も長期間続いている幸福研究の一つとして知られています。
この研究では、
「人を幸せにする最大の要因は何か」
を何十年も追跡しました。
結論は驚くほどシンプル。
「良好な人間関係が、幸福にも健康にも最も強く関係していた」
収入でもありません。
名誉でもありません。
IQでもありません。
良い人間関係を持つ人ほど、認知機能も保たれ、身体的健康も良く、長生きする傾向がみられました。
つまり、
幸せとは、誰かとつながっていること。
私たちが何となく感じていることを科学的にも裏付けた結果でした。
◆孤独は健康リスクでもある
さらに2023年にはWHO(世界保健機関)が、社会的孤立と孤独を世界的な健康課題として位置づけました。
社会的孤立や孤独感は、
うつ病
不安障害
心血管疾患
認知症
早期死亡
などのリスク上昇と関連することが報告されています。
つまり、
孤独は「気持ちの問題」ではなく、健康そのものに影響する要因なのです。
◆不老不死よりも大切なこと
不老不死そのものより、
今日、一緒に笑える人がいること。
困ったときに相談できる人がいること。
「わかるよ」と言ってくれる人がいること。
こちらの方が、はるかに価値があるように思います。
人生は長さだけでは測れません。
限りがあるからこそ、今日という時間を誰かと共有できる。
その積み重ねこそが、「幸せ」なのではないでしょうか。
もし人魚の肉を食べて永遠の命を手に入れられるとしても、私はたぶん遠慮します。
「また会おうね。」と言える人がいる人生を大切にしましょう。
参考文献
- Waldinger RJ, Schulz MS. The Good Life: Lessons from the World’s Longest Scientific Study of Happiness. Simon & Schuster, 2023.
- Holt-Lunstad J, et al. Social relationships and mortality risk: a meta-analytic review. PLoS Med. 2010;7(7):e1000316.
- World Health Organization. Commission on Social Connection. 2023.
- National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine. Social Isolation and Loneliness in Older Adults. 2020.
取材実績(一部抜粋)
【TV】TBSテレビ「情報7daysニュースキャスター」(『ドパガキ』について)
【WEB】Yahoo!ニュース(
スマホ一律禁止はNG?メンタルクリニックで増加傾向「ドパガキ」相談…専門医 “年齢別の付き合い方”指南「刺激の排除でなく、他の楽しさを失わないこと
)
【WEB】PRESIDENT Online(
カリッと焼いてかじるだけ…9月のメンタル不調者に不足する栄養素がとれる「スーパーにある食材」
)
【監修】大塚商会
「自分の状態を確認する簡単ストレスチェック」
【雑誌】マガジンハウス「Tarzan」
【雑誌】株式会社プレジデント社「PRESIDENT WOMAN」
【TV】フジテレビ『バイキング』
【TV】TBS『ビビット』
【YouTube】『ぶーちゃんねる-歌舞伎町リアル-』(
【病院】歩き辛いくらいアトピーがひどいので皮膚科に行ってきました。
)
【YouTube】『かずのすけ』(
敏感肌でもできる【痛くない医療脱毛】はあるの?お肌に優しい脱毛を受け続けたら5年前より若返った30歳男子の『顔脱毛』体験レポ
)
【Web記事】LITALICO発達ナビ
【Web記事】LITALICO仕事ナビ
【Web記事】Medicalook
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