「祝い酒」「やけ酒」「百薬の長」──アルコール依存症で起こる問題とは?

「祝い酒」「やけ酒」「百薬の長」──アルコール依存症で起こる問題とは?

こんにちは、医師の森しほです!

精神科医として診療していると、アルコールの問題を抱える方からさまざまな飲酒理由を聞きます。

  • 「今日はいいことがあったので祝い酒です」
  • 「嫌なことがあったのでやけ酒です」
  • 「疲れているので飲みます」
  • 「眠れないので飲みます」
  • 「体調が悪いので気付けに少しだけ飲みます」

一見すると、それぞれもっともらしい理由に聞こえます。
しかしよく見ると、そこにはある共通点があります。


飲む理由は毎回違う。でも結論は同じ

「祝い酒」「やけ酒」「百薬の長」──アルコール依存症で起こる問題とは?

依存症では、

「理由があって飲む」のではなく、「飲むことが先に決まっていて、理由が後からついてくる」

ことがあります。

良いことがあれば祝い酒。

悪いことがあればやけ酒。

疲れていても飲む。

元気でも飲む。

つまり、どんな状況でも最終的な結論は同じです。

「だから飲む」

です。

依存症の世界では、このような考え方を「合理化(rationalization)」と呼びます。

自分自身を納得させるために、脳が自然と説明を作り出してしまうのです。


問題が起きても別の理由を探してしまう

さらに依存症が進行すると、

  • 転んだのは酒のせいではなく靴のせい
  • 家族と喧嘩したのは相手のせい
  • 仕事のミスは疲労のせい
  • 肝臓が悪いのは体質のせい

というように、飲酒との関連を認めにくくなることがあります。

これは「否認(denial)」と呼ばれる現象です。

嘘をついているわけではありません。

本人も本気でそう信じていることが少なくありません。

なぜなら、飲酒の問題を認めることは、「酒をやめなければならないかもしれない」という不安につながるからです。

脳は無意識のうちに、その苦痛を避けようとします。


「自分でも止められない」が依存症

「祝い酒」「やけ酒」「百薬の長」──アルコール依存症で起こる問題とは?

依存症の患者さんはしばしばこう言います。

「本当は今日は飲まないつもりだった」

「一本だけのつもりだった」

「気づいたら飲んでいた」

周囲から見ると理解しづらいかもしれません。

しかし依存症とは、単なる意思の弱さではなく、

“飲まないという選択が著しく難しくなった状態”

です。

依存症になると、脳の報酬系やストレスへの対処の仕組みに変化が起こります。

その結果、「やめたい」という気持ちがあっても、自分の意思だけでコントロールすることが難しくなります。

だからこそ、

「なぜ飲んだの?」

という問いに対して、さまざまな理由が並びます。

しかし本質的には、

理由の問題ではなく、飲酒欲求そのものの問題

なのです。


依存症は病気であって、人格の問題ではない

依存症の方は、

「意志が弱い」
「だらしない」
「自業自得」

と言われることがあります。

しかし、これは医学的には正しくありません。

依存症は病気です。

もちろん最初の一杯は本人が選んだかもしれません。

しかし依存症になった後は、脳の機能変化によってコントロールが難しくなっています。

高血圧の人に「血圧を下げる気合いが足りない」と言わないように、依存症の人に「意志が弱い」と責めても解決にはつながりません。

必要なのは非難ではなく治療です。

もしアルコールがやめられない、自分ではコントロールできないと感じているなら、一人で抱え込まず医療機関に相談してほしいと思います。

依存症は、専門的な治療や支援によって回復を目指せる病気です。

アルコールはストレスを解消しているわけではない

「ストレスがたまるから飲む」

という方は少なくありません。

確かに飲酒直後は気分が軽くなったように感じます。

しかし実際には、アルコールがストレスそのものを解決しているわけではありません。

アルコールは一時的に不快な感情を感じにくくするだけです。

問題は残ったままです。

しかも時間がたつと、

  • 二日酔い
  • 睡眠の質の低下
  • 自己嫌悪
  • 家族とのトラブル
  • 仕事への影響
  • 健康問題

など、新たなストレスが増えていきます。

つまり、

依存対象はストレスを解決するのではなく、一時的にごまかしているだけ

なのです。

そして依存症の背景には、

  • 生きづらさ
  • 不安
  • うつ状態
  • トラウマ
  • 孤独
  • 家族関係の問題
  • 職場のストレス

などが隠れていることも少なくありません。

そのため治療では、アルコールだけを見るのではなく、

「なぜアルコールが必要になったのか」

という根本原因にも目を向けることが大切です。


アルコールだけ取り上げても回復にはならない

依存症治療というと、

「お酒を取り上げれば解決する」

と思われることがあります。

しかし現実はそれほど単純ではありません。

たとえアルコールを完全に禁止して閉じ込めたとしても、それだけで健康になるわけではありません。

依存症の背景にある苦しみやストレスが残っていれば、別の依存に置き換わったり、再飲酒につながったりすることがあります。

もちろん、重度のアルコール依存症では離脱症状が危険なため、入院や保護的な環境で一時的にアルコールから離れることがあります。

しかしそれはゴールではなくスタートです。

本当に必要なのは、

アルコールなしでも生きていける生活を作ること

です。


家族も一人で抱え込まないでほしい

依存症は本人だけでなく、家族も深く傷つけます。

家族は、

「私が支えなければ」
「私が見張らなければ」
「私が何とかしなければ」

と思いがちです。

しかし、家族が一人で依存症を背負うと共倒れになることがあります。

依存症の治療は家族だけで行うものではありません。

医療や支援機関、自助グループなどを活用しながら進めるものです。

家族自身も休息や支援を受けることが大切です。


どんな理由でも飲む方向に考えが向かってしまう病気です。

そして、それは本人の意志の弱さではなく、治療が必要な病気です。

だからこそ、本人を責めるのではなく治療につなげることが大切です。

また、家族だけで抱え込まず、周囲の支援や医療の力を借りることも重要です。

依存症からの回復とは、単にお酒をやめることではありません。

お酒がなくても生きていける状態を、少しずつ取り戻していくこと。

そのための支援は、今の時代、数多く存在しています。まずは一人で抱え込まず、相談することから始めてみてください。


うつ症状、孤独感、ストレスなど、背景にある問題を一緒に治療していくことが回復への近道です。
精神科・心療内科では飲酒の問題だけでなく、その原因となっている心の不調についても相談できます。

また、通院が難しい方や重症の方では訪問診療という選択肢もあります。一人や家族だけで抱え込まず、医療の力を借りることをおすすめします。早めの相談が、回復への第一歩になります。


メンタルクリニックでできること

アルコール依存症の治療は、「お酒をやめましょう」と言われるだけではありません。

まず、飲酒量や依存の程度を評価し、

  • 不眠
  • 不安
  • うつ症状
  • 発達特性
  • トラウマ
  • 職場や家庭のストレス

など、依存症の背景にある問題を整理していきます。

必要に応じて、

  • 飲酒欲求を抑える薬
  • 不眠や不安に対する治療
  • カウンセリング

などを行います。

依存症の方は「お酒が問題」なのではなく、「お酒がないと耐えられない何か」を抱えていることが少なくありません。そのためメンタルクリニックでは、その根本原因にも目を向けながら治療を進めます。


訪問看護でできること

依存症が進行すると、

  • 通院できない
  • 外出が難しい
  • 家族が連れて行けない
  • 飲酒で生活が破綻しかけている

という状況になることがあります。

その場合は訪問看護が役立ちます。

看護師が自宅を訪問し、

  • 身体状態の確認
  • 精神状態の確認
  • 薬の相談
  • 飲酒状況の把握
  • 家族への助言
  • 入院が必要かどうかの判断

などを行います。

特に重度の依存症では、本人よりも家族が先に限界を迎えていることがあります。

訪問看護では患者さん本人だけでなく、家族も支援の対象です。


訪問看護の大きなメリット

依存症の方の中には、

「病院へ行く気はない」
「自分はアルコール依存症じゃない」
「通院は面倒」

と感じている方も少なくありません。

しかし家に医療者が来ることで、

まず関係性を作ることができます。

依存症治療では、いきなり断酒させることよりも、

『医療とのつながりを切らさないこと』

が重要な場合があります。

そのため訪問看護は、

「病院へ来られる人の治療」ではなく、「病院へ来られない人を見捨てないための治療」

とも言えます。


早めの相談がおすすめです

依存症は進行性の病気です。

しかし適切な治療を受ければ回復も可能です。

「まだ大丈夫」と我慢しているうちに、仕事、家族関係、身体の健康まで失ってしまうこともあります。

一方で、

  • 最近飲酒量が増えた
  • 飲まないと眠れない
  • 休肝日が作れない
  • 家族に心配されている

という段階で相談できれば、治療の選択肢は大きく広がります。

本人だけでなく、ご家族からの相談でも構いません。

依存症は一人で抱える病気ではなく、医療や支援につながることで回復を目指せる病気です。

当院では、医師による診察だけでなく、心理士によるカウンセリングも行っています。
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当てはまる項目に「はい」か「いいえ」でお答えください。

本チェックは診断ではありません。
生活に支障がある場合や、不安・落ち込み・体調不良が続く場合は、医療機関や専門窓口へご相談ください。

  1. 人混み・音・光・においなどの刺激で、強く疲れたり体調を崩しやすい
  2. やることが多いと優先順位がつけられず、頭が真っ白になることがある
  3. 急な予定変更や曖昧な指示に強いストレスを感じやすい
  4. 周囲との会話や空気の読み取りで疲れやすく、人間関係に消耗しやすい
  5. 疲れやすさ・不安・落ち込み・自己否定感が続いている
「祝い酒」「やけ酒」「百薬の長」──アルコール依存症で起こる問題とは?

この記事の著者

森 しほ

ゆうメンタルクリニック・ゆうスキンクリニックにて勤務。
産業医として一般企業のケアも行っている。

◆専門分野: 精神医療 / 皮膚科
◆資格:日本抗加齢医学会専門医 / 産業医 / 公認心理師
◆所属学会:日本皮膚科学会 / 日本抗加齢医学会
◆著書:『発達障害ママの子育てハック(監修) 』飛鳥新社

 

  取材実績(一部抜粋)

【雑誌】マガジンハウス「Tarzan」
【雑誌】株式会社プレジデント社「PRESIDENT WOMAN」
【TV】フジテレビ『バイキング』
【TV】TBS『ビビット』
【YouTube】『ぶーちゃんねる-歌舞伎町リアル-』( 【病院】歩き辛いくらいアトピーがひどいので皮膚科に行ってきました。
【YouTube】『かずのすけ』( 敏感肌でもできる【痛くない医療脱毛】はあるの?お肌に優しい脱毛を受け続けたら5年前より若返った30歳男子の『顔脱毛』体験レポ
【Web記事】LITALICO発達ナビ
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