物忘れは「年齢」だけが原因ではない――脳を蝕む「隠れ栄養不足」

物忘れは「年齢」だけが原因ではない――脳を蝕む「隠れ栄養不足」

働き盛り世代こそ知っておきたい
最近の物忘れや集中力低下は「年齢」だけが原因ではない――脳と心を守る「隠れ栄養不足」

こんにちは、ゆうメンタルクリニック 医師の森しほです。

産業医として、企業で働いている方のご相談を受ける中で、このようなお悩みが少なくありません。

「最近、人の名前がすぐに思い出せない」
「仕事中に集中力が続かない」
「以前より疲れやすく、些細なことでイライラしてしまう」

40代後半から50代、60代にかけて、このような変化を感じる方は多いようです。

「仕事が忙しいから仕方ない」
「年齢のせいかな」

そう思って見過ごしてしまう方も多いのですが、実は物忘れや集中力の低下には、認知症以外にも改善できる原因が隠れていることがあります。

睡眠不足やストレス、抑うつ状態、薬の副作用、甲状腺の病気、貧血、そして栄養不足もその一つです。

もちろん、認知症を見逃してはいけません。しかし、「年齢だから」と決めつけるのも、「認知症かもしれない」と過度に心配するのも早い場合があります。

今回は、働き盛りの世代だからこそ知っておきたい「隠れ栄養不足」についてお話しします。

太っていても栄養不足は起こる

「栄養不足」と聞くと、やせて食事量が少ない人を思い浮かべるかもしれません。

しかし実際には、体重が十分あっても必要な栄養素だけが不足していることは珍しくありません。

例えば、

・朝はコーヒーだけ
・昼はパンやおにぎりだけ
・夜は外食や会食

このような生活では、カロリーは足りていても、たんぱく質やビタミン、ミネラルが不足しやすくなります。

特に働き盛りの世代は、健康診断で体重や血糖値に問題がないと安心してしまいがちです。しかし、筋肉量は少しずつ減少し、脳や体を支える栄養が不足していることも少なくありません。

脳にも「材料」が必要です

脳は休むことなく働き続けています。

考えること、記憶すること、判断すること、気持ちを安定させること。そのすべてに栄養が必要です。

気分や意欲に関わるセロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質も、体の中で作られる際には、たんぱく質やビタミン、ミネラルなどが関わっています。

もちろん、「この食品を食べれば記憶力が上がる」「このサプリだけで認知症を防げる」というほど単純なものではありません。

大切なのは、一つの栄養素だけを大量に摂ることではなく、毎日の食事全体を整えることです。

働き盛り世代が意識したい5つの栄養素

① たんぱく質

たんぱく質は筋肉だけではなく、脳や免疫、ホルモンなど体をつくる材料です。

忙しい方ほど、朝食を抜いたり、昼食を麺類やおにぎり、パンだけで済ませたりすることがあるため不足しやすくなります。

おすすめは、

・卵
・魚
・鶏肉
・豆腐
・納豆
・ギリシャヨーグルト

などを毎食一品取り入れることです。

「手のひら一枚分くらいのたんぱく質が毎食あるか」を目安にすると続けやすいでしょう。

② 亜鉛

亜鉛は味覚や皮膚、免疫機能などに関わる栄養素です。

不足すると、

・味が薄く感じる
・食欲が落ちる
・傷が治りにくい
・疲れやすい

などの症状が現れることがあります。

牡蠣、牛赤身肉、卵、チーズ、ナッツなどに多く含まれます。

一方で、サプリメントを自己判断で大量に飲み続けると、別の栄養素の不足を招くこともあります。必要に応じて医師へ相談しましょう。

③ 鉄

鉄不足というと女性のイメージがありますが、男性にも起こります。

不足すると、

・疲れやすい
・息切れ
・集中しづらい
・頭がぼんやりする

などの原因になります。

赤身肉、かつお、あさり、大豆製品などがおすすめです。

なお、中高年の男性や閉経後の女性で鉄不足が見つかった場合は、食事以外の病気が隠れていることもあるため、一度医療機関で相談してください。

④ 葉酸・ビタミンB12

これらは赤血球を作るだけでなく、神経の働きにも重要です。

不足すると、

・考えがまとまらない
・集中しづらい
・物忘れが増えたように感じる

ことがあります。

葉酸はブロッコリー、ほうれん草、枝豆、納豆などに多く含まれます。

ビタミンB12は肉や魚、卵などに多く含まれます。

⑤ ビタミンD

ビタミンDは骨だけではなく、筋力や免疫機能との関わりも知られています。

魚、卵、きのこ類などを意識して取り入れてみましょう。

日光を浴びることでも体内で作られますが、屋内で過ごす時間が長い方では不足していることもあります。

忙しい人ほど陥りやすい食生活

朝はコーヒーだけ。

昼はコンビニのおにぎり。

夜は会食や外食。

これではカロリーは十分でも、たんぱく質やビタミン、鉄、亜鉛などが不足しやすくなります。

改善のポイントは難しくありません。

「炭水化物だけで終わらせない」

これだけです。

おにぎりにはゆで卵を。

パンにはヨーグルトを。

麺類には肉や卵、豆腐を。

一品加えるだけでも栄養バランスは大きく変わります。

スーパーやコンビニでも十分できます

忙しくても、特別な健康食品は必要ありません。

おすすめは、

・鮭
・サバ缶
・卵
・納豆
・牛赤身肉
・ブロッコリー
・ほうれん草
・きのこ
・ヨーグルト
・チーズ

どれも手に入りやすく、続けやすい食品です。

コンビニでも、

・サラダチキン
・焼き魚
・ゆで卵
・冷ややっこ
・カットサラダ
・無糖ヨーグルト

などを組み合わせれば十分に栄養バランスを整えられます。

完璧を目指す必要はありません。

まずは一日一食、「炭水化物だけの食事」を減らしてみましょう。

気になる症状が続くときは医療機関へ

食事は健康の土台ですが、それだけで全てが解決するわけではありません。

物忘れが急に増えた。

同じことを何度も聞いてしまう。

慣れた仕事の手順が分からない。

時間や場所が分からなくなる。

体重が急に減った。

強い疲労感や息切れが続く。

このような症状がある場合は、自己判断せず医療機関を受診してください。

診察では生活習慣や睡眠、服薬状況などを確認し、必要に応じて貧血や鉄、ビタミンB12、葉酸、甲状腺機能などを調べることがあります。

栄養不足は、認知症を否定するものではありません。しかし、改善できる原因の一つとして確認する価値があります。

おわりに

働き盛りの世代は、仕事や家庭で多くの役割を担い、自分のことを後回しにしがちです。

しかし、集中力や判断力、気力は「頑張る気持ち」だけでは維持できません。

体と脳に必要な栄養があってこそ、本来の力を発揮できます。

今日の食事に卵を一つ加える。魚を一品選ぶ。野菜を少し増やす。

そんな小さな積み重ねが、5年後、10年後の健康につながります。

そして、「最近少しおかしいな」と感じる変化が続くときには、一人で抱え込まず医療機関へ相談してください。

毎日頑張る皆さんが、いつまでも健やかに働き、自分らしい毎日を送れることを願っています。

この記事の著者

森 しほ

ゆうメンタルクリニック・ゆうスキンクリニックにて勤務。
産業医として一般企業のケアも行っている。

◆専門分野: 精神医療 / 皮膚科
◆資格:日本抗加齢医学会専門医 / 産業医 / 公認心理師
◆所属学会:日本皮膚科学会 / 日本抗加齢医学会
◆著書:『発達障害ママの子育てハック(監修) 』飛鳥新社

 

  取材実績(一部抜粋)

【雑誌】マガジンハウス「Tarzan」
【雑誌】株式会社プレジデント社「PRESIDENT WOMAN」
【TV】フジテレビ『バイキング』
【TV】TBS『ビビット』
【YouTube】『ぶーちゃんねる-歌舞伎町リアル-』( 【病院】歩き辛いくらいアトピーがひどいので皮膚科に行ってきました。
【YouTube】『かずのすけ』( 敏感肌でもできる【痛くない医療脱毛】はあるの?お肌に優しい脱毛を受け続けたら5年前より若返った30歳男子の『顔脱毛』体験レポ
【Web記事】LITALICO発達ナビ
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