摂食障害

摂食障害

食べ物に対して異常なほど執着し、極端な食生活をしてしまう摂食障害。
悪化すると日常生活に大きな影響が出るだけでなく、最悪の場合、命に危険が及ぶため適切な対処が必要です。

ここでは摂食障害の症状や原因、そして治療法について解説します。

摂食障害とは

摂食障害とは、食べ物への極端な考え方や行動が健康を損なう状態を指します。代表的な症状は、過剰なダイエットによる食事制限や、大量の過食と嘔吐の繰り返しです。自分の体型を過剰に気にし、実際の体重が低くても「太っている」と認識してしまいます。さらに痩せようとする強迫観念が支配的になります。食事の量が極端に少なかったり多かったりと、質が偏り日常生活にも支障をきたすなど、心身ともに深刻な影響が出ます。

摂食障害には大きく分けて2つのタイプがあります。1つは「神経性やせ症」で、過剰なダイエットや運動で食事制限を繰り返す低体重状態です。もう1つが「神経性大食症」で、過食と嘔吐・下剤乱用を繰り返す過食嘔吐のタイプです。どちらも食べ物への異常なこだわりから起こる深刻な病態です。

この病気にかかると、最悪の場合は生命に危険が及ぶこともあります。低体重にともなう身体機能の低下で、心不全や不整脈、電解質異常(脱水になると、口渇、血圧低下、ふらつきなどが出る症状)などの深刻な合併症が起こる可能性があるためです。適切な治療を早期に受けることが何より大切になってきます。

摂食障害の人は何がおかしい?

摂食障害のある人は、食べ物や体型、体重に異常なほど強くこだわり執着します。

例えば、女性モデルのような極端にスリムな体型を理想として追求し、BMIが15程度の低体重であっても「まだ太っている」と感じ続けます。健康被害が出る危険な状態でありながら、自覚がなく異常とは思えない状態となってしまいます。

食事面では、1日の摂取カロリーを極端に低く制限を続けたり、一方でケーキやアイスなどを一時的に大量に食べ過ぎてしまい、その後すぐに指を突っ込んで無理やり吐いたりと、食べる量が極端に偏っています。

また、例えばパン屋の前を通り過ぎた際に、食べたい欲求抑えられなくなってしまい、大食いをしてしまい、その後強制的に下剤を使って排泄させるなど、食習慣が異常な状態になってしまうケースもあります。

鏡で自分の姿を見ても、スリムな体型なのに「私はとてもデブだ」と過剰に太っていると認識し、常に「もっと痩せなければ」と強迫的に考えてしまいます。実際の体型と認識のギャップが大きく、強迫的な思考に囚われてしまうのです。

さらに、体重を僅かでも増やすと、すぐさま食事制限や過剰な運動で体重を落とそうとします。一時的な体重増加に過剰に反応し、その後の食事制限がより極端になるという悪循環にも陥ります。この異常な体重コントロールが、次第にコントロールを失っていく原因になります。

日本における摂食障害の性別の割合

日本における拒食症の男女別の割合は、女性が0.9%~2.2%男性が0.2%~0.3%で、女性の方がやや多いことがわかります。
一方、過食症の場合は女性が1.5%~2%男性が0.5%となっており、これも女性の発症率が高いのがわかります。

摂食障害かどうかはこれで判断

摂食障害かどうかを判断する主な基準は以下の3点です。

・体重や体型を過剰に気にし、常に「もっと痩せたい」と願望があり続ける。例えば、ダイエット中でも「まだ太い」と食べ物を残し続けたり、鏡を見る度に「太りすぎだ」と思ってしまう。

・極端な食事制限を続けたり、一時的に大量の食べ物を食べてしまい、その後に無理に吐いたり便秘薬や下剤を使って排出したりする行為を繰り返す。

・実際に鏡で見る自分の体型と、自分が認識している太った体型にギャップがある。例えば、スリムな体型なのに「私は太っている」と言い張ったり、適正体重であるにもかかわらず「もっと痩せなければ」と食事を控える。

これらの症状が3カ月以上継続する場合は、摂食障害の可能性が高いと考えられます。本人に自覚がなくても、家族や周りの人から「無理なダイエットをしすぎだ」「食べ方が異常だ」など、異常な状態だと指摘されていれば要注意です。

摂食障害の症状

摂食障害

極端な痩せ願望がつよい

摂食障害の代表的な症状は、BMIが18以下の低体重でありながら、過剰な痩せ願望とダイエットを続けることです。1日の食事量をごくわずかに抑え、過剰な運動を行うなどして、常にカロリー消費を上回るような健康を損なう行動に走ります。実際の体重は低いのに、鏡を見ても自分は太っているように見え、さらに痩せなければならないという強迫観念にとらわれ続けます。

このタイプの摂食障害は「神経性やせ症」と呼ばれ、極端な拒食と過剰な運動で過剰なダイエットを続けます。体重が標準レベルを下回っても、さらなる痩せ願望がつよく、食事制限を続けてしまいます。痩せすぎで生理不順や無月経になり、貧血や低体温、脱毛といった身体症状が目立つようになります。

食べすぎて吐く人もいる

もう一つの主な症状は、過食と嘔吐の繰り返しです。ケーキやアイスクリームなどを一時的に大量に食べてしまい、その後すぐに自分で指を突っ込んで吐いたり、便秘薬や下剤を使って排出したりします。食べ過ぎたことへの強い罪悪感と、次の過食を防ごうとする心理から、この行動に走ります。適切な食事ができず、体重のコントロールが難しい危険な状態が長期間続きます。

このタイプは「神経性大食症」と呼ばれ、つい我慢できずに大量に食べてしまう過食と、その後の自ら嘔吐や下剤の使用による補正行動が周期的に繰り返されます。この過食と補正行動の循環が延々と続き、体重のコントロールがついにできなくなってしまいます。

過食の際は数千カロリーから数万カロリーもの高カロリー食品を短時間で食べ込み、嘔吐や下剤でその後すぐに排出します。
しかし、次第に補正する量が追いつかなくなり、肥満傾向になっていきがちです。過食のたびに自己嫌悪に陥り、その後さらなる過食につながるなど、悪循環に陥ります。

普通の生活もできなくなる

摂食障害が重症化すると、食べ物や体重を気にするあまり、日常生活に多大な支障が出ます。誰かと外食や会食の約束があれば必ず断ったり、体重が気になって外出もできなくなったりします。さらに、長期間の栄養不良から生理不順や貧血、低体温、歯の虫歯や脱毛などの身体症状が次々と現れます。社会生活への影響が大きくなり、やがては通院や入院が避けられない重い状態になります。

特に神経性やせ症の人は、低体重によって集中力や判断力が低下し、日常生活で支障が出がちです。階段を上がるだけで息切れしたり、ちょっとの運動で体力が続かなくなったりと、身体能力の低下が顕著になります。

また、怒りっぽくなったり、孤独を好むようになるなど、人間関係にもトラブルが起こりやすくなります。

一方の神経性大食症では、過食の後に落ち込みや自己嫌悪に陥り、周りとうまく付き合えなくなることが多くなります。こうして徐々に人間関係が疎遠になり、家にこもりがちになってしまうなど、社会的孤立も避けられません。

スリム美を追い求めすぎる

摂食障害の主な原因は、現代社会がスリムな細身の体型を過剰に求める価値観にあります。女性誌やテレビCMなどのメディアがスリムを"理想の美しさ"と訴え続けたため、若い女性を中心に、スリム美を無理に追い求める傾向が広がりました。理想とされるモデル体型との大きなギャップに苦しみ、極端な食事制限や過剰な運動によるダイエットに走ってしまう人が増えているのです。

そして、ソーシャルメディアの普及により、ボディシェイミング(体型を理由にバッシングする行為)が後を絶たず、体型へのコンプレックスを助長しています。一般人はもちろん、芸能人やモデルさえ過剰な体型やダイエット批判にさらされ、摂食障害を発症するリスクが高まっています。

また、スポーツ競技の世界でも細身選手が求められる種目が多く、過剰なダイエットを強要されることもあります。体操やフィギュアスケート、陸上の一部種目など、ルックスが評価対象となる競技では、常に体重コントロールを求められがちです。その過程で摂食障害を発症するケースも少なくありません。

このように、スリム美をあまりにも過剰に理想化し追求する社会的な価値観が、摂食障害を生む大きな原因になっていると言えます。

自分に自信が持てない人も

摂食障害の原因として、低い自尊心や完璧主義的な性格傾向も指摘されています。自分の容姿や体型に強くこだわり、理想の細身体型と現実のギャップから、極度の体型コンプレックスを抱えています。完璧を求め過ぎるあまり、常に痩せ願望にとらわれ、自分への納得がいかなくなるのです。低い自尊心から自分への自信が持てず、体型コンプレックスから抜け出せずにいる人も多いようです。

特に思春期の女子は、体型への過剰な関心と低い自尊心が重なり、摂食障害に陥りやすい傾向にあります。急激な身体の変化に戸惑い、さらにメディアがスリム美を美化することで、自分の体型へのこだわりが高くなるのです。この時期に、親や教師から適切な指導を受けられないと、摂食障害のリスクが一気に高まってしまいます。

一方、男性の場合は、筋肉質なマッチョボディを理想と考え、たくさん食べて筋トレに打ち込むタイプの「反すう性筋肉質異常症」と呼ばれる摂食障害も起こりえます。体型コンプレックスから常に理想の肉体を追求し、食事や運動に過剰にこだわるようになるのです。

このように、自己肯定感の低さから常に理想の体型を追い求めてしまう傾向が、男女を問わず摂食障害の原因になっていると考えられています。

摂食障害の原因

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家庭の問題やいじめも原因に

家族関係のトラブルや、いじめ、ストレスなどの環境的要因も、摂食障害の原因になり得ます。家族とのコミュニケーション不足から、食べることで自己主張や反抗をする場合があります。
また、いじめなどで心に深い傷を負い、それが過剰なコンプレックスや自己嫌悪につながり、摂食障害に陥る例も少なくありません。

虐待を受けた経験がある場合も、食事をコントロールすることで自己防衛をしようとするケースがあります。身体的虐待はもちろん、無視や過干渉といった心理的虐待も、食事コントロールによる反抗や自傷の動機につながります。

特に、両親が過度に体型や食事を気にするなど、家庭内で食に対する認識が偏っていると、子どもが摂食障害になりやすくなります。極端なこだわりを植え付けられたり、常に体型を気にする環境にさらされたりすることで、正常な食生活のあり方が分からなくなってしまうのです。

一方、いじめによって生じた深い心の傷が、過剰なコンプレックスや自己嫌悪の発端になることもあります。体型をいじめられた例も多く、それが極端な痩せ願望や過食嘔吐の行為につながります。人間関係でのストレスがかかり、食べることで発散する摂食障害に陥るケースが少なくありません。

摂食障害の治療法

摂食障害

カウンセリングと食事指導が大切

摂食障害の治療では、まず医師や専門カウンセラーによる心理療法が不可欠です。心療内科や精神科で、食べ物に対する極端な考え方や行動の偏りを正していきます。同時に、管理栄養士による適切な食生活指導を受け、バランスの良い食事と適正な摂取カロリーを身につけていきます。心理面と栄養面の両面からのケアが重要となります。

心理療法では、認知行動療法が中心的に行われます。食べ物や体型への極端な考え方を認識し、それを直していくプロセスを踏みます。カウンセリングを通して、「スリムでなければ価値がない」といった偏った価値観を修正し、自己肯定感を高めていきます。

さらに、医師による適切な薬物療法も行われる場合があります。うつ症状が強い場合は抗うつ薬、不安が高い場合は抗不安薬を投与するなど、心理状態の安定を図ります。
ただし、薬物療法は一時的な対症療法に過ぎず、根本的な心理療法が大切になります。

一方の食事指導では、管理栄養士が患者一人ひとりの状況に合わせた食事プランを提案します。無理のない範囲で徐々に適正エネルギー量を増やしていき、最終的にはバランスの取れた食生活を身につけさせることが目標です。個別の食べ方のクセを直し、正しい食習慣を定着させていきます。

このように、心理と食事の両面からのアプローチが不可欠です。治療に際しては、医師、看護師、臨床心理士、管理栄養士などが連携したチーム医療体制が求められます。

重い場合は入院も

症状が重く、外来での通院治療だけでは改善が難しい重症の場合は、入院治療を行うことがあります。病院に数週間から数ヶ月入院し、医師、看護師、管理栄養士からなるチーム医療によって、集中的なケアを受けながら心身の健康を徐々に回復させていきます。

例えば、体重が極端に低下しているような場合は、点滴で栄養剤を補給し、徐々に食事の量を増やしていきます。入院中は規則正しい食事と運動を義務付けられ、適正な体重まで回復を目指します。

また、抑うつ状態にあり、自殺願望があるような深刻な精神症状がある場合は、抗うつ剤などの薬物療法で安定を図ります。食事と並行して精神科医からのカウンセリングを受け、体と心の両面からケアされます。

このように、入院治療では医師や看護師、栄養士が連携し、患者一人ひとりに合わせた集中的な治療を行います。環境を完全に管理した上で、専門スタッフの下で規則正しい生活リズムを身に付けさせ、健康を取り戻すのが狙いです。

入院中は、個室か複数人部屋で生活します。食事は個別の食事プランに従い、スタッフの監視下で済ませます。過食や食べ残しなどの異常行動が見られれば、すぐに指導が入ります。入浴や排泄のタイミングも規則正しく設定され、生活全般が管理されます。

摂食障害の予防法

摂食障害

家族や仲間の支えも力に

家族の理解と協力も、大切な治療の一部となります。家族が摂食障害の症状や対処法を正しく理解し、患者を温かく見守り、サポートしてくれることが重要です。
また、当事者同士のグループセラピーに参加したり、交流を深めたりすることで、共感の輪を広げていけます。家族や友人、仲間からの理解と支えが、回復への大きな力となるのです。

家族に対しては、医療スタッフから病態や治療の進め方について十分な説明がされます。食事の度に一緒に付き添うことで、患者の異常な行動を発見しやすくなります。
また、過剰なダイエットや運動を制限するなど、回復への協力が求められます。

一方、患者同士の交流の場を設けることも有効です。グループセラピーでは、同じ体験を持つ仲間と気持ちを共有し合えます。お互いを刺激し合い、前向きな気持ちを育てていくことができます。孤独感から開放され、治療意欲への大きな後押しにもなります。

さらに、SNSなどを活用した患者コミュニティの形成も、最近では注目されています。オンラインで日常的に交流できる場が生まれ、気軽に体験を共有し合えるようになりました。
このように、家族の理解とサポート、患者同士の絆が、摂食障害の回復に大きな影響を与えます。医療従事者だけでなく、身近な人々の温かい支えが、何より大切なのです。

バランス食と体型受け入れが予防に

摂食障害を予防するためには、健全な食生活習慣と、適切な体型の認識を持つことが何より大切です。

主食・主菜・副菜を基本とするバランスの良い食事を心がけ、一時的な流行ダイエットなどには振り回されません。
また、スリムだけが美しいわけではなく、様々な個性的な体型を受け入れる寛容さを持つことが重要です。体型や容姿への固定観念から自由になれば、摂食障害に陥るリスクを大きく減らせるでしょう。

そのためには、学校や職場、家庭などあらゆる場所で、体型や容姿を理由とした偏見や差別をなくすことが不可欠です。ダイエットや痩せすぎを賞賛したり、肥満を嘲笑したりする風潮は許されません。様々な体型を前提とした教育が求められます。

また、メディアにおいても、スリム美の押し付けは控えられるべきでしょう。むしろ、バランスの良い食生活の大切さを訴え、健康的な生き方を提案することが重要です。体型や容姿よりも、内面の人間性や個性を尊重する価値観の転換が必要不可欠です。

家庭でも、食に対する価値観の偏りに気を付ける必要があります。極端な拘りは子どもに悪影響を与えかねません。適度な食事と運動を心がけ、互いの体型を受け入れる寛容さを持つことが大切で、そうした健全な価値観を子どもに植え付けることが、予防につながるのです。

いじめのない環境作りも大事

学校、職場、家庭など、あらゆる場所で健全な環境作りが求められます。体型や容姿への偏った価値観をなくし、人間性や個性を大切にする意識を持つことが不可欠です。理不尽ないじめやハラスメント、人格を傷つける発言がない、安心して過ごせる環境を整備することで、摂食障害のリスクを下げられます。一人ひとりを尊重し合える社会をつくることが、予防につながります。

SNSなどのメディアにおいても、ボディシェイミングは注意深くする必要があります。むしろ、多様な体型を受け入れ、すべての人の健康的な生き方を応援する発信が重要です。価値観の転換が、摂食障害の予防に欠かせません。

いじめや体型への偏見は、子どもたちに深刻なダメージを与えかねません。学校現場では、体型や容姿を理由としたいじめを徹底的に排除する必要があります。子どもたちに多様性を認め合う心を育むことが何より重要なのです。

職場でも同様に、体型や容姿を理由にした馬鹿にしたり、差別的な発言は決してあってはなりません。上司や同僚から人格を傷つけられれば、摂食障害に陥るリスクが高まります。互いを思いやり、個性を尊重し合える職場環境づくりが欠かせません。

このように、あらゆる場所でいじめや偏見のない健全な環境を整備することが、摂食障害を予防する上で極めて重要となります。多様性を認め合い、一人ひとりの個性を尊重し合える社会の実現が何より望まれます。

出典:
摂食障害の有病率は?
https://www.sessyokusyougai-clinic.com/ed/prevalence.html

ボディシェイミング(Body shaming)とは・意味 | 世界のソーシャルグッドなアイデアマガジン | IDEAS FOR GOOD
https://ideasforgood.jp/glossary/body-shaming/

students644-20.pdf
https://www.hokekan.tsukuba.ac.jp/tu_healthcenter/wp-content/uploads/students644-20.pdf

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官越いやし|ゆうメンタルクリニック心療内科・精神科

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