発達障害

発達障害

発達障害は、脳の発達の遅れや偏りにより、学習、コミュニケーション、行動などにおいて日常生活で様々な困難が生じます。
発達障害の主な症状や治療法、向き合い方についてご紹介します。

発達障害とは?

発達障害とは、脳の発達の遅れや偏りにより、学習、コミュニケーション、行動などに支障がある状態を指します。 発達段階で身につけるべき能力が十分に備わっていないため、日常生活で様々な困難が生じます。
主に3つの種類に分けられますが、実際には重複して現れることが多くみられます。 自閉症スペクトラム症(ASD)注意欠陥・多動性障害(ADHD)学習障害(LD)の3つの特性が複合的に関係し合っている例が多数あります。

博報堂主催の発達障害関連のウェブサイト(https://h-hakase.jp/report01/)によるとASDやその疑いがある子供は13人に1人とされていて、医療従事者向けのニュースサイト「医療NEWS QLife Pro(https://www.qlifepro.com/news/20221017/adhd-6.html)」によれば、ADHDと新規に診断された患者数は83万人とされ決して少なくない数と言えます。また、LDについては実態調査が十分でないため、正確な患者数は分かっていません。

また、発達障害にはさまざまな程度の幅があり、一人ひとりの症状の現れ方にもたくさんのパターンがあります。さらに、症状の重さにもかなりの幅があります。最重度の場合から最軽度の場合まで、かなりの範囲が存在するのが特徴です。
重度の場合は、極端な症状があらわれます。ASDでは言語の著しい遅れなどがあり、ADHDでは注意力がまったく持続できない、多動性が極端である等の症状がみられます。

一方、軽度の場合は、普通の生活は送れるものの、一定の困難はあります。ASDでは対人関係の構築が苦手、ADHDでは作業中に気が散りやすいなどの症状が現れます。
このように、発達障害には重症度にかなりの幅があり、一人ひとりに合わせた適切な支援が必要不可欠なのです。

さらに、発達障害には知的障害は必ずしも伴わず、一定の知的能力は備わっているものの、特定の領域で著しい困難があるのが特徴です。従って、適切な指導や支援があれば、本来の能力を十分に発揮することが可能となります。しかし、誤った対応をすれば、二次的な問題行動につながるリスクもあります。

ASD( 自閉症スペクトラム症)

ASD(自閉症スペクトラム症)は、人との社会的なコミュニケーションや対人関係に著しい困難を抱えています。言葉の発達の遅れや、会話の一方通行目が合わせられないなどの症状があります。他者の気持ちを理解したり、想像することが苦手です。

また、特定の物や行動にこだわる傾向があり、パターン化された行動を繰り返すなどの特徴があります。
重度の場合は、全くコミュニケーションが取れない状態や、常同行動(同じ動作を繰り返す)などの行動の硬直化と呼ばれる症状が見られます。反対に、軽度の場合はコミュニケーションの問題は少ないものの、対人関係の構築が難しかったり、興味が偏ったりする傾向があります。

ADHD(注意欠陥・多動性障害)

ADHD(注意欠陥・多動性障害)は、年齢相応の注意力が持続できず、無駄な動きが止められない状態が特徴です。授業や作業中に注意が散漫になったり、落ち着きがなく席を離れたりするため、学習面での困難が生じやすくなります。衝動的な言動も見られ、危険を冒す行動に走ったりもします。
ADHD症状の程度には個人差があり、年齢が上がるにつれて症状が改善する場合もあれば、大人になっても持続する場合もあります。

LD(学習障害)

LD(学習障害)は、全体的な知的発達は年齢相応なのに、聞く、話す、読む、書く、計算する、推理するなど、特定の領域で大きな困難がある状態を指します。その領域以外は年齢相応の発達をしているため、見落とされがちです。
LDの中でも、最も多いのが「読み書き障害」です。文字の認識や音読が困難で、読み書きの能力が著しく低い状態を表します。次いで「算数障害」で、計算力や数の概念の理解が困難です。さらには「注意欠陥障害」(ADHDとは異なる)や、「運動障害」なども含まれます。

診断基準

発達障害の診断には、医師による専門的な判断が必要です。行動観察や発達検査、質問紙検査などを行い、診断基準に基づいて総合的に判断されます。

ASDでは、コミュニケーションや対人関係、興味や行動の偏りの3つの特徴があることが基準になります。ADHDでは、注意力の持続困難、多動性、衝動性の3つの症状が基準です。LDは、全体的知能は年齢相応ですが、特定の学習能力だけが著しく遅れていることが基準となります。

発達障害の症状

発達障害

ASDの症状

ASDの主な症状は、社会的コミュニケーションの障害と、こだわり行動や常同行動(同じ行動の反復)が挙げられます。
コミュニケーション障害は、話し言葉の遅れ、一方的な会話、身振りや表情の使い分けができないことなどがあります。

また、他者の気持ちを推測することが苦手で、指示の意味が分からなかったり、冗談が理解できなかったりします。会話の主題をうまく維持できず、場違いな発言をしてしまうこともあります。

次に、こだわりの症状では、特定の物事に強い興味を持ち続けたり、決まった行動を繰り返したがる傾向があります。新しいことや変化を嫌う硬直した行動パターンがあり、強い不安感を催す場合もあります。

さらに、感覚過敏により、特定の音や光、におい、触覚に過剰に反応することもあります。一方で、逆に鈍感な場合もあり、痛みを感じづらかったりします。
重度の場合は、言語の遅れが顕著で、ほとんど話せない状態になることもあり、他者とのコミュニケーションがほぼ一方通行になってしまいます。

また、強いこだわりから危険な行動に走ったり、自傷行為があったりする場合もあります。

ADHDの症状

ADHDの3つの主な症状は「注意力の持続困難」「多動性」「衝動性」です。

注意力の持続困難では、集中力が途切れてしまい、作業を最後までやり遂げられません。注意がそれやすく、環境の小さな変化にも注意を奪われます。指示を聞き漏らしてしまったり、作業中にそれてしまったりするため、失敗が重なりがちです。

次に、多動性は、過剰に動き回る行動のことで、じっとしていられず、落ち着きがありません。適切な動きを制御できず、乱雑で大声を出したりします。授業中や会話の際に席を離れたり、しつこく動き回ったりします。

最後の衝動性とは、思い付きで行動してしまう症状です。周りの状況判断が困難で、失敗しても気づけず注意を受けがちです。道具の扱いが雑で、怪我をすることもあります。つい口走ってしまったり、順番を乱したりする問題行動も見られます。

このように、ADHDの3つの主症状は日常生活で大きな支障となり得ます。
さらに、こうした中核症状(判断力障害や失語、記憶障害など、脳の一部分の損傷をきっかけに、脳の機能が低下することで直接的に現れる症状)に加えて、学習面や対人関係での困難を伴うケースも少なくありません。症状の程度にはばらつきがあり、個別の分析(これをアセスメントとも言います)が重要視されています。

LDの症状

LDの症状は、知的発達は年齢相応なのに、特定の領域で学習に大きな困難があることです。「読み書き障害」なら、文字の認知や綴りの習得が極端に難しく、内容の理解も困難になります。「算数障害」は、計算力が非常に低く、数や量の概念の理解が苦手です。「注意欠陥」があれば、指示が入ってこない、作業が中断されがちになります。

読み障害の場合、文字の読みづらさ、音読の苦手さ、読解力の低さ、綴りの困難さなどの症状があらわれます。計算障害では、計算ミスが多発したり、筆算ができなかったり、概算が難しかったりします。注意欠陥障害では、指示を理解できずにすぐ集中力を失ってしまいます。

このように、学習面での著しい遅れがあるものの、他の能力は年齢相応であるため、見過ごされやすい障害です。適切な指導がなされないと、つまずきの積み重ねから学習意欲が失われ、二次的な問題行動に発展する可能性があります。早期発見と適切な対応が何より重要となります。

発達障害の原因

発達障害

ASDの原因

ASDの原因は、脳の発達の異常により高次脳機能(思考・記憶・行為・言語・注意などの脳機能)の障害が生じているためだと考えられています。

しかし、発症のメカニズムは完全には解明されておらず、明確な原因は分かっていません。 遺伝的な要因と環境的要因の両方が複雑に関与していると推測されています。

また、母体の加齢や、妊娠中の母体の健康状態なども、発症リスク要因とされています。ただし、発症の仕組みそのものが不明なため、断定はできません。

ADHDの原因

ADHDの正確な原因はまだ特定されていませんが、脳の働きの問題が関与していると考えられています。前頭前皮質の発達の遅れや、ドーパミンなどの神経伝達物質の異常など、脳内の様々な要因が関係していると考えられています。

また、遺伝的要因と環境的要因の両方が影響を及ぼしていると指摘されています。親にADHDがいると発症リスクが高くなるほか、母体の喫煙や飲酒、鉛の接種なども危険因子とされています。

LDの原因

LDの原因も十分に解明されていません。基本的には脳の機能障害によるものですが、遺伝、脳の損傷、環境的要因など、さまざまな要因が複合的に関与していると考えられています。
遺伝的要因としては、家族に学習障害やADHDがいる場合に発症リスクが高くなります。一方、環境要因としては、母体の飲酒や喫煙、流産や早産のリスク、新生児の低酸素症などが指摘されています。さらに、脳の損傷や神経系の発達異常なども原因の一つと考えられています。

発達障害の治療法

発達障害

ASDの治療法

ASDの根本的な治療法はまだありません。そのため、療育(発達障害のある子どもへの個別支援のことを言います)を通じて症状を和らげ、生活環境を整えることが中心となります。
療育では、カリキュラムとして組まれた指導を通じてコミュニケーション力を高め、こだわりの緩和や社会性の向上を図ります。さらに、作業療法士や言語聴覚士、心理士などが関わり、一人ひとりに応じた療育計画を立て、訓練を行います。
遊びや活動を通した療育も有効とされています。代表的な療育プログラムとして、応用行動分析(ABA=子どもがどうして問題行動をするのか、その前後のことも考えることで、子どものことをよくわかるように分析のこと)があげられます。

また、環境の提供も重要です。視覚的な手がかりを活用したり、予定を明示したり、作業の手順を示したりすることで、子どもが状況を理解しやすくなります。
そして、家族での支援も大切です。障害への理解を深め、子育てに役立つスキルを身につけてもらうことで、療育の効果が高まります。一部の症状には薬物療法が試みられる場合もありますが、ASDの根本的な治療にはならず、症状の改善を図る意味合いが強くなります。

ADHDの治療法

ADHDの治療には、心理社会的アプローチと薬物療法が組み合わされます。
心理社会的アプローチでは、行動療法や認知行動療法などで、集中力を高め、衝動的な行動をコントロールする方法を身につけさせます。療育や家族支援も含まれ、家庭や学校での環境調整が重要視されています。代表的な療法にペアレントトレーニングがあり、保護者に子どものADHD理解と具体的な対応方法を学んでもらいます。

薬物療法では、主に精神刺激薬が使用されます。この薬は、脳内の神経伝達物質の分泌を調整して、集中力や落ち着きを改善する働きがあります。ADHDの中核症状に有効ですが、成長期の子どもには慎重に投与される必要があります。副作用への注意も必要不可欠です。
総合的な治療として、薬物療法と並行して心理社会的アプローチを行うことが推奨されています。環境調整と薬物、そして認知行動療法などを組み合わせることで、より高い治療効果が期待できるからです。

LDの治療法

LDの主な治療法は特別な教育的アプローチです。障害の内容や程度に合わせて、個別に指導計画を立てていく必要があります。

指導では、苦手な読み・書き・計算の特定分野に的を絞り、基礎から丁寧に訓練します。指導法にはさまざまなものがあり、視覚化や動作化を取り入れたり、コンピュータを利用したりするなどの工夫があります。
指導方法の一つとして、発達段階を意識したカリキュラムを用いることがあげられます。苦手な領域の発達課題を整理し、その段階から順を追って指導することで、確実な学習が可能になります。また、補助教材の活用なども有効です。

家庭でのサポートと学校・教師との連携、障害理解の啓発も欠かせません。保護者への助言や、教職員に対する研修の実施なども求められます。薬物療法は一般的ではありませんが、ADHDなどの併存障害には薬が処方される場合があります。

LDの治療には、一人ひとりの特性に応じた柔軟な対応が肝心です。発達過程を十分に見極め、適切な支援を継続的に行うことが何より重要となってきます。

発達障害の予防法

発達障害

発達障害を確実に予防する方法はまだ確立されていません。しかし、妊娠中の母体の生活習慣には十分気をつける必要があります。
妊娠中の飲酒や薬物乱用は控え、バランスの取れた食生活と適度の運動を心がけましょう。加えて、タバコの有害物質を避け、ストレス過剰にならないよう気をつけましょう。化学物質の過剰接種も注意が必要です。胎児の脳の発達に悪影響を与えるリスクがあるためです。

分娩時の低酸素症を避けることも大切です。出生前から子どもの健やかな育ちを見守ることが、障害のリスクを減らすことにつながります。また、出産後の適切な栄養摂取と愛着形成も、健全な発達を促す上で重要な要素となります。

さらに、発達障害のリスクを下げるためには、子どもの頃からの環境も影響が大きいと考えられています。乳幼児期からの親子の適切なコミュニケーションや、過度のストレスを与えない子育て環境づくりが推奨されます。また、発達障害の早期発見と適切な療育も予防対策として有効です。

発達障害の原因は複合的であり、予防法の確立には課題も多くありますが、母体と子どもの健康管理を通じて、リスクを最小限に抑えることが重要です。社会全体で発達障害の方を支援する環境づくりも並行して進める必要があります。

発達障害との向き合い方

発達障害のある子どもに適切な支援や配慮をするには、まず障害の特性を正しく理解することが欠かせません。一人ひとりの強みと困難さを把握し、個性に合わせた対応をする必要があります。具体的には、集中力の持続が難しい子には短い作業を繰り返したり、人前で話すのが苦手な子には個別に対応するなど、それぞれの特性に合わせた工夫が求められます。

そのためには、発達障害を持つ方と接する家族やパートナー、教師、そして地域全体での理解を深めることが求められます。偏見を持たずに受け入れ、できることとできないことを見極めた上で、寄り添う支援をしていくことが大切です。

例えば、発達障害のある子が集団行動が苦手な場合、別の活動を用意するなど、無理強いはせずに個別対応することが肝心です。
そうした環境を整備し、障害のある人も含め、誰もが地域で安心して自分らしい生活を送れるような社会を目指すことが重要です。学校や職場、地域コミュニティにおいて、発達障害への理解を促進し、適切な支援体制を構築することが不可欠です。一人ひとりの個性を尊重し、多様性を受け入れる風土を育むことで、誰もが居場所と役割を得られる社会づくりを進めていく必要があります。

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